初音くろ

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今日のテーマ
《あいまいな空》





重く垂れ込める濃い灰色の空からは今にも雨粒が落ちてきそう。
でもその隙間、雲の層が薄くなっている場所からはうっすら太陽の光が見えている。

「そろそろ降ってくるかな?」
「帰るくらいまでなら持ちそうじゃない?」

空を見上げながら言い交わす。
それぞれの手にはエコバッグいっぱいの食材があり、今日は揃って傘を持ってきていない。
それというのも、朝の天気予報は晴れ予想、雨が降るとしたら夜半過ぎになるだろうというお天気キャスターの言葉を信じたがゆえ。
とはいえあくまで『予想』であって、確率が100%じゃないのは織り込み済み。

「やっぱりこの時期は折り畳みくらいは持ち歩くべきだったか」
「晴雨兼用の日傘とか?」
「じゃなきゃせめて撥水性の上着とかな」
「コンパクトに折り畳めるやつね」

そんなことを口々に言い合うけど、歩くペースはいつもと変わらず。
苦笑い混じりの口調は軽く、あくまで雑談の域を出ない。
持ち歩いた方がいいのは分かっていても、結局面倒だったり忘れたりで持ち歩かないのだ。2人とも。

「降ってきたらコンビニかどこかでビニ傘でも買う?」
「それならどこかで雨宿りの方がいいな。冷凍品もないし、要冷蔵のは保冷バッグに入れてあるし」
「まあ雨の中をこの大荷物で帰るよりその方がいいか」
「途中のカフェで期間限定の美味しそうなメニューやってるんだよね」
「そっちが本命か」

指摘すれば、バレたかと悪戯っぽく舌を出す。
その笑顔はどこか得意げでもあり、こちらもつられて笑ってしまった。
もう一度空を見上げて雲の様子を窺う。
今にも降り出しそうでもあるし、もう暫くは持ちそうでもある。
梅雨の最中のこの時期らしいあいまいな空模様は、素人目には判断が難しい。
ちらりと横目に彼女を見れば、その目はどことなくワクワクと期待を帯びていて。

「仕方ない、寄ってくか」
「やった!」
「帰るまでに降ってきたら荷物抱えてダッシュだからな」
「そこは止むまで粘ろうよ」
「それは雨次第だな。何時間も止まなそうなら諦めて濡れて帰るぞ」
「うーん、その場合はしょうがないか」

どちらともなく早足になるのは雨を避けるためか、それともカフェのメニューに引かれてか。
予報通りとはいかないまでも、せめて家に帰るまでは、或いは降るなら店にいる間に止んでくれよ。
荷物を抱え直しながら、どんより曇るあいまいな空を見上げてそう天に祈るのだった。





6/14/2023, 2:04:22 PM