sioko

Open App

『1000年先も』

(雨が降りそうだな…)
地面に仰向けになって空を見上げる…なんて、いつ以来だろうか。
折角の空は灰色の雲に覆い尽くされ、手に届きそうな位近く、湿っぽい空気が漂っていた。薄暗い感じがするが、今はまだ昼過ぎではなかったか?
そんな風にのんびりと考えていると、遠くから人の声と共に、ザッ、ザッ…と草を掻き分けるような足音が聞こえてきた。…今更、下臣や援軍が来ても困るな。
足音の主はこちらを発見したのか、息を呑む音がしたかと思うと、ガシャガシャと鎧を鳴らしながら足早に近付いてきた。
…視界に入ってきたのは、刀の切っ先をこちらに向けた、敵軍の兵士だった。
「…貴殿は※※※※殿で、間違いございませんな?」
「…ぁ…ぁ…」
風の音ばかり喉から出る。自分でもあまり確認できてないが、やはり喉も斬られているのだろう。
腹から流れ出る血の温もりを指に感じながら、私はまた考えた。
きっと、この戦いに勝利した敵方の総大将殿がこの国の頂点に立つだろう。そしてこの国を治め、平和な世を作っていく。その過程で、勝者のための歴史が作られ、彼は1000年先まで名を残しているのかもしれない。
かたや、我が主君や私の名は肉体と共に滅び、二度とこの世に残っていないのかもしれない。敗者となった以上、それは致し方あるまい。
無念はある。こんな結果で、主君へ申し訳が立つわけが無い。けれど、この命と名が消えようとも、輪廻の巡る彼方にこの魂が再び生を受けたら…1000年、その歴史の先を辿ることが出来るのなら…勝者として死ぬことができなくても、少しはマシかもしれない。
「…では」
首筋に当てられた刃の冷たさがいやに響く。
黒い雲からぽたりと雨粒が落ちてきて、頬を流れた。

2/4/2023, 10:33:35 AM