鯖缶

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わたしがわたしであると自覚したときから、隣を見ると彼がいた。
わたしと彼はいつも一緒。
ずっと隣で笑い合ってる。
結婚式ではケーキ入刀のとき顔にクリームをつけてたね。
新居に移ってからもずっと隣で、時には向い合ったり、背中合わせになったり、でもいつも一緒。
ずっと変わらないわたしたち。

でも、家が突然真っ暗になったこの日、あなたは初めて隣からいなくなった。
少し離れた場所であなたの顔が光って見えた。あなたの目から涙が溢れてる。
どうか一人で泣かないで。いつも隣にいたあなた。
すると体がふわりと舞って、気づけばあなたの隣にいたの。
あなたの光がわたしに移り、わたしの目からも涙が出てきた。
いつも隣にいるあなた。
あなたの顔はもう見えない。
けれど今、わたしとあなたは隣にいるだけじゃない。
あなたとわたし、ぼくはきみ、きみもぼく、わたしがあなた、どちらがどちらか分からないくらい混ざり合って溶け合ってとうとうぼくらは1つになった。



「え? 停電?」
「じゃあ、これつかっちゃわない? 結婚式のケーキにのってたやつ。」
「点火!」
「おぉ~、蒼斗君が燃えてる…。」
「1人だと可哀想だから、美里も一緒に…。」
「人型のロウソクって、火を点けた後のこと考えなかったのかなぁ。」
「あんまり見ていていい気分ではないよね。」
「溶けてくね…。」
「うん。」
「あ、あれみたい。」
「あれって?」
「錫の兵隊とバレリーナの人形の話。燃えてひとつになるんだよ。」
「燃えてひとつに…? え? それは…激しい夜的な話なの?」
「童話です!」

3/13/2023, 2:09:20 PM