白眼野 りゅー

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「青を突き詰めると、どうなるのだろう」

 と、僕が何気なくこぼすと、

「黒くなるんだよ」

 と、君は答える。

 ぷしゅっ、と炭酸がペットボトルから解放される音が、二つ重なった。


【青い青い春を煮詰めて】


「黒?」
「うん、黒。暗黒。あるいは、虚無」
「なんでまた」
「だって、このどこまでも続く青空の上には、宇宙が広がっているじゃない」
「なるほど」

 僕は一つ頷いて、理科の教科書で見た絵を頭に描いた。空の青が、上空に向かうに従ってだんだん濃くなってゆき、濃紺を経て宇宙の黒になる。

「あるいは、ブルーハワイのかき氷シロップで想像してもいい。あの液体を鍋に入れて、煮詰める。水分が飛んで、だんだん青い成分が凝縮されていく。そして最後には……」
「鍋の底に、黒が残る」
「そういうこと」

 僕が理解を示したことに満足したのか、君はどこか楽しそうに頷いた。

「……青の先の色は、黒」

 君の言葉を咀嚼するように、僕は呟く。

「じゃあ、青い春はいつか、黒い春になるの?」
「……そうなる前に、私たちは青であることをやめるべきだね」
「そうなる前って、いつ? どこまでが青で、どこからが黒なの?」
「さあ。もしかしたら、今日がその、青でいられる最終日かもしれない」

 こともなげに君は言う。明日の天気の話をしているみたいな、間違いなく自分の生活に関わる話なのにどこか他人事のような響き。

「……それは、二時間目からでも授業に出るという宣言と取っていいの?」
「どうしようね。チャイムが鳴ってから考えるよ」
「それじゃ、いいとこ遅刻止まりだよ」

 分かっている。こうして授業をサボって買い食いすることを安易に「エモい」とラベリングして、青春を謳歌できる時間なんて限られている。そう何度も繰り返していいイベントじゃない。それはたぶん、善悪とは別の次元の話だ。かき氷シロップは、何時間も煮詰めてはいけない。最初のうちは青が濃縮されていくのが楽しいかもしれないが、すぐにその夢のような青も黒く汚されてしまう。

 そういうことに気づかない「青いガキ」の方が、こういう逃避行のお供には向いているのだろうな。それでも、僕の隣にいるのはどうしようもなく濃紺の君で、僕自身もまた、これ以上煮詰めたら危険な藍の色をしている。

「ねえ、学校まで競争しようよ」

 こくん、真っ黒なコーラを一口飲んで、君は僕に笑いかけた。

「先についたほうが、負けね」
「……僕、結構負けず嫌いだよ」
「望むところ」

 僕もコーラに口をつけた。火力を下げて、ゆっくり、ゆっくり。たぶんお互いに、相手が火から下ろしてくれたらな、なんて、甘ったれた子供みたいなことを考えている。

5/3/2025, 12:43:15 PM