名無し

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    哀愁を誘う



古い、ぼろぼろになったドイツ語の参考書、単語帳や電子辞書、元は明るい緑だったであろう色褪せてしまった化学の参考書。

そんな祖父の趣味に染まった、勉強机のすぐ横にある狭い本棚にあるその二冊の本は異彩を放っていた。


『最新! よく分かる遺産相続と手続きの仕方』

『葬式の最低資金から作法まで分かる!はじめての葬式ガイドブック』


集中できるように、祖父がと部屋を貸してくれたのにも関わらず、勉強に飽きて祖父の部屋をぼーっと眺めていた時にそれを見つけてしまった。

周りの本たちとは明らかに新しい色をしたそれは酷く哀愁を誘って、周りの本よりもパステルな色をしているのに重苦しい雰囲気を纏っていた。

まだ全然元気でしょうに、と隣の棚に飾ってある四年前に出かけた沖縄の海で泳ぐ祖父と祖母に目を映す。

その本たちに手を伸ばそうとした時、祖父が「ご飯だって」とドアをノックした。

私は「片付けてから行く」と返事をして、本に伸ばしていた手を引っ込めた。


11/4/2024, 11:37:14 PM