ほろ

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手から汗が止まらない。喉が渇き、ごくり、唾を飲み込む。
目の前にそびえ立つのは、観覧車だ。夕日を背に、ゆっくり回っている。またごくり、喉が鳴る。
「どうしたの、行かないの?」
「あ、うん、行こうか」
後ろにいた彼女に急かされ、僕は観覧車に乗った。彼女も僕の正面に座る。観覧車の扉が閉められた。僕達の呼吸音が観覧車の中を満たす。
「……今日、楽しかったね」
「えっ、うん、そうだね……!」
この後のことを考えると、上手く喋ることができない。
ただ返事をするのでさえ、人間一年目かというくらい当たり障りのない言葉しか出てこない。
ちら、と彼女を見る。彼女はぼんやり外を見ていた。その横顔がまた美しい。じゃなくて。早く言ってしまわなければ。
「なんか、ずっと上の空だけど何を考えているの?」
彼女の声がして、ハッとする。いつの間にか、彼女の視線は僕へ向いていた。
「え?」
「今日、ずっと何か考えてるでしょ? デートしよって言ったのそっちじゃない」
サッと血の気が引く。さっきまで汗だくだった手からも一気に汗が引いた。
もしかして、もしかしなくても、怒ってるのではなかろうか。今日、この場所で伝える言葉ばかりを頭で流し続けていたから、彼女からしたら上の空に見えたのかも。
「ちがっ、違うんだ、あのっ」
「……何?」

「僕と結婚してくださいっ…………って、言おうと……思って……そればかり考えて……しまいまして」

後半にいくにつれ、視線も声も下向きになる。
言ってしまった。彼女の顔を見るのが怖い。どうか、頼むから、想像通りの反応であってくれ。

僕はゆっくり、顔を上げた。そこには。

2/11/2024, 3:24:14 PM