「はたちになったら、一緒に死のうよ」
彼がそう言ったのは、高校卒業が着々と近づいてきた三月はじめのこと。
教室に吹き込む暖かい風が薄いカーテンと彼の緩くウェーブのかかったきれいな髪をふわりと揺らす。
彼が髪を細くしなやかな指で耳にかける。
きれいだった。
「良いよ。はたちになったらふたりで死のう」
思わず、そんなことを口走った。
彼は驚いたような顔をしたあと、軽快にからからと笑い声を上げた。
なにがおかしいのか問えば、「だって、まさか君がそう言ってくれるなんて思ってもなかったから!」と言う。
もう一度、更に強い風が桜の花弁と共に吹き込む。
このまま攫われてしまいそうだ、なんて思う。
彼が攫われたのは、桜なんかではなくて荒れた冬の冷たい波だったのだけど。
あのとき、「まだ行かないで」と言えたらどんなに良かったか!
10/24/2024, 10:22:58 AM