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#向かい合わせ

 アプリで知り合ったその彼は、なぜか向かい合わせで座ることを嫌がった。
 背の高い大柄な人なのに、真正面から見つめると、目を伏せてうつ向いてしまう。それが何だか可愛くて、私は好感を持った。
 二度目のデートはカフェのカウンターで隣り合ってランチ、映画を観てから夕暮れの公園を並んで歩いた。
 彼の横顔は鼻筋が通って睫毛が長く、そっと手を繋がれると胸がドキドキした。
「また会ってくれる?」
「うん、もちろん」
良かった、と微笑む横顔はとても優しい。
 でも次の瞬間、強く腕を引かれて両肩を掴まれた。
 キスされるのかな…と思いながら、私は初めて正面から彼の顔をまともに眺め、そして戦慄した。
顔の右半分にはさっきのまま微笑みが浮かんでいるのに、左半分は仮面のように表情がないのだ。
 少し遅れて左側の唇がキュウッとつり上がり、冷々した酷薄な笑みが広がった時、“二面性”という言葉がふと私の頭に浮かんだ。
 横顔しか見せなかったわけが、それで分かった。

8/25/2024, 3:33:02 PM