300字小説
雨女の恋
「私、雨女ですの」
お嬢様はよくそう言って苦笑いされておりました。旅行、パーティ、お芝居見物など、お嬢様が楽しみにしている日には必ず雨が降ると。反対に運動の苦手なお嬢様の体育会や海水浴などの日は必ず雲一つない青空になりました。
他に雨が降る日と言えば、お嬢様が執事と出かける日でしょうか。髪が乱れて困るとちょっとおかんむりのお嬢様はとても愛らしかったです。
そんなお嬢様の御成婚の日。その日は朝から快晴でございました。高砂の謡が流れるなか、一度会っただけの見合い相手のもとに嫁ぐお嬢様はしばし執事を潤んだ目で見つめられてました。
真っ青な空の下、出ていかれるお嬢様。玄関先には一粒二粒、雫の跡がございました。
お題「雫」
4/21/2024, 12:15:44 PM