はす

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雲り

線路沿いの桜並木を二人で歩く。桜の下の斜面には菜の花が植えられていて、桃色と黄色が酷く目に映えた。
「曇ってきたね」
空を見上げると、先程まで出ていた太陽が厚い雲に覆い隠されてしまっていた。花見を予定していた今日は朝から曇りがちで、晴れたり曇ったりを繰り返している。美しく鮮やかだった花々も、薄く灰がかったように輪郭がぼやけてしまった。せっかくの花見だったのに。
「ねえ、花曇りって知ってる?」
「花曇り?」
耳慣れない言葉だった。「桜の花の咲く頃の明るく曇った空模様」という意味だと言う。丁度、今日の様な天気の事だろうか。
「この言葉を作った人がいたなら、きっと、今日の様な空を綺麗だと思って作ったんだろうなって」
春は曇りが多いから、気にも止めていなかったのだけれど。花曇りと言う言葉に縁取られた今日のこの天気が、急に綺麗な輪郭を帯びた。

太陽が厚い雲から抜け出し、薄雲を透過した弱い光が差し込んでくる。辺りが微かに明るくなる。ぼんやりと白く霞んでいる様にも見えた。
何ともなしに見ていた淡い桜の色が、酷く綺麗に目に映った。




3/23/2025, 11:43:01 PM