勝手に友達だと思っている奴がいる。
もう死んでしまっただろう。
相手は私のことなんて、なんとも思っていない。
むしろ怖がられていたのかもしれない。
あれは8年前の夏。
私は人生のドン底にいた。
夜が老ける頃、家族が寝静まったのを見計らって、台所に座って酒を飲み出す。
味わうわけでもない。ツマミもない。
ただ口から、流し込むような行為。
次第に頭の縛り付けが緩み、少し楽になる。
そしてクラクラになるまで、倒れ込んで寝るまでその行為は続く。
ある日、目の前に1匹の虫が現れた。
夏によく出る、黒光りボディの、急に飛んだりする、
みんなが大嫌いなアイツ。
そう、通称Gだ。
いつもなら悲鳴をあげて逃げるのだけれど、もう酔っ払っていたし、落ち込みすぎて殺す気力もない。
そいつは少し小さめのボディで、出てきてもたいして移動せずに、長い触角だけを動かしていた。
コイツは、放っておいたらどうするのかな?
と、思いしばらくじっと見つめていた。
そのうち物陰に入って見えなくなった。
翌日の夜中も、同じように酒を煽っていたら、またアイツが出てきた。昨日と同じ奴だ。
今日も、殺す気力はない。
昨日と同じく、動き回るわけでもなく、水道の蛇口のあたりにいる。
「お前も一人なんだな。」
声をかけたら心がほんわりと温かくなった。
このドン底の孤独の夜には自分しかいないって思ってたけれど、アイツも夜を超える仲間のように感じた。
だんだん愛着が湧いてきて、出てくるのを待つようになるほどだった。
それから…
そんな夜をいくつか超えて、アイツも出てこなくなって私もドン底から抜け出した。
今でも夏の夜になると時々アイツを思い出す。
ドン底の闇に現れてくれた、小さな友達を。
お題「friends」
ここまで書いて気づきましたが、friendsでしたね。
書いたのはFriendでした!まあいいか。
10/20/2025, 12:15:03 PM