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好きになれない 嫌いになれない 2025.4.29

「悪いが、頼みたいことがあるんだ」

 兄さんの声がする。
 ああ、それどころじゃないんだ。
 俺は今、あいつのために時間を取られているのだから。
 パソコンの前に座って、今あいつと向き合っている。

 あいつの存在は、思い出すだけで辛い時がある。
 あいつさえなければ、もしかしたらずっと楽しい日々が続くと思うんだ。
 だけど、あいつからは逃げられない。
 あいつのことが頭から離れない。

 例えば、そう。
 バイトが忙しくてあいつにかかりっきりになれない時とか。
 来週の3日までになんとかしないといけなくて、あいつと向き合わないといけなくなるときとか。
 あいつに付き合わないといけない時に限って、疲れてしまってすぐベッドに入りたくなったり机を片付けたくなったりする。
 そんな時には、特にあいつのことをうっとうしく感じるんだ。

 分かっている。本当はもう、あいつと向き合わなければならないんだと。逃げられないんだと。
 分かっているからこそ、いつもあいつのことが頭から離れない。

 バイトをしていても、食事をしていても、ゲームをしていても、朝起きてから、夜寝る前でさえ。
 だから、どんなにあいつを好きになろうとしても、それでも好きになれないでいる。

 だからといってあいつのことが嫌いになれない。本当は、嫌いじゃないから。
 それに、完全に嫌いになってしまったら、もう人生詰んでしまう。

 結局、俺はあいつと逃げずに向き合って、言葉にするしかないんだ。
 俺はパソコンの前に渋々座ると、目の前の画面を見てため息をついた。

 そんな時だった。兄さんがようやく何を言っているのかわかった。
「弟、聞こえてるか? コンビニに醤油買いに行って欲しいんだが」

 俺はパソコンの前で唸りながら返事する。
「今レポート書いてんだよ」

4/30/2025, 8:30:13 AM