【梅雨】
昔は雨が大嫌いだった。髪の毛は纏まらないし、靴下はぐしょぐしょになるし、公共交通機関は何故か混む。良いことなんて一つもない。雨が毎日のように降り続く梅雨なんて、それはもう最悪の季節だ。
だけど今年は、少しだけ梅雨が楽しい。ステンドグラスのように透明な輝きを見せるカラフルな傘を、くるりと回した。その動きに合わせて、傘の落とす影で私の足元が華やかに彩られる。
『綺麗な傘でしょ? 君に似合うと思って』
照れ臭そうに笑いながら、君が贈ってくれた傘。誕生日でも記念日でもない、文字通りの何でもない日に渡される贈り物なんて、人生で初めての経験だった。
ぴちゃり、ぴちゃり。水音を立てながら、軽やかに駅へと歩いていく。駅ビルの前に立つ君が、傘をさした私の姿を見つけて嬉しそうに顔を綻ばせた。
髪型はちゃんと決まってないし、靴下は絞れるくらいに濡れている。これから乗るバスもきっと大混雑だ。それでも君のくれた傘をさして、君と一緒に行くデートなら、別に良いかなって思えるんだ。
「お待たせ!」
明るく声をかけて大きく手を振って、私は弾む足取りで君へと駆け寄った。
6/1/2023, 11:10:17 AM