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カメラを向けられて、
スマイルスマイル!などと呼びかけられても
微笑んだことなど1度もなかった
それどころか、
無理に作った笑顔を残したところでなにになる、
このカメラマンだって、さして見たくもない他人のスマイルを要求させられて可哀想に、と
心の中で一蹴して
むしろ口をへの字に曲げるのが私の得意技だったはず


「ほら、スマイルだよ!」

そう呼びかけるあなたの声が
あまりにも楽しそうで
思わず笑みがこぼれる
私と目が合うとあなたは大きな目を三日月型に歪めて
私以上にとびきりのスマイルを作って見せた


「すっごくいい笑顔、見て見て!」
なるほど悪くない、
彼女が撮った私の笑顔は、確かに良かった。
私はこういう風に笑う人間だったのだと感心すると共に、昔あのカメラマンが求めていたものをこの歳になってようやく表現することになるとはという複雑な気持ちに浸っていると、

「ねえ、次は私のこと撮ってよ!」

彼女は押し付けるように私の手にカメラを預け、
背を向けて、
私が先程まで居たフォトスポットへと走って行く

私が名前を呼ぶと、
彼女がくるっとこちらを振り向いた

その時、私の瞳は
世界で1番美しいスマイルを記憶したのであった

2/9/2023, 5:40:05 AM