もんぷ

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ひらり

 自分がまだ三歳の時、ピアノの発表会の衣装を探しに母と大きいショッピングモールに訪れた。母に好きなのを選びなさいと言われたから、自分は真っ先に淡いピンクのチュールがひらりと揺れるドレスを指差した。
「ねぇ、あれがいい!」
すると、母は困ったように眉を顰めて言った。
「だいくん、あれは女の子用だよ。」
当時の自分はその意味はあんまりわからなかったけど、母が困っているならダメかと素直に諦めた。

 自分が男だと理解したのはいつだろう。四歳の時に母と近所のおばあさんに挨拶したら「だいきくん、将来男前になりそうね。」と頭を撫でられた時だろうか、幼稚園でお姫様ごっこに混ぜてもらえた時に自分だけ与えられた配役が王子様だった時だろうか、小学生一年生の時に仲良しだと思っていた香奈ちゃんに「かなのおむこさんになってくれない?」とほっぺにちゅーされた時だろうか。

 自分が女になりたいと理解したのはいつだろう。三歳の時にピンクのドレスを着たいと思った時だろうか、五歳の時に「だいくん」や「だいきくん」ではなく「だいちゃん」と呼ばれたいと親友にだけ打ち明けた時だろうか。それとも…

 高校二年生の時、桜がひらりひらりと舞う帰り道で、
「…だいちゃんにだけ言うわ。俺、三組の香奈ちゃんが好きなんだよね。」と好きな人に告げられた時だろうか。

3/3/2025, 2:18:24 PM