君と見上げる月
高校生の頃からの友人と、偽りの夫婦をしている。
それはお互いの両親を納得させるためにとった、同性愛者同士の苦肉の策だった。
愛はない。けれど不仲でもない。寧ろ、男女にしては仲が良い方だと思う。
仕事で疲労が溜まった日は、二階のベランダに出て、ぼうっと夜風に吹かれるのが好きだ。都会の喧騒から離れた住宅街はほどよく静かで、もう少し秋が深まれば様々な虫の大合唱が聞こえるだろう。
今日は特に、半分だけになった朧月が見える。
「圭。やっぱりここにいた」
柊介が網戸を開けた。虫が寄ってくるからと、部屋の電気は消してあった。
「六連勤お疲れ様。明日から二連休だよね?」
柊介が手に持った缶ビールを一本差し出しながら問う。ありがと、と言い、ビールを受け取った。
「そうだけど、明後日の休みがなくなりそう。体調崩した子がいてさ」
プルタブを開けると、小気味よい音が夜空に吸い込まれて消えた。
「大変だね」
「でも楽しいよ」
販売員という接客業が好きだ。
柊介も缶ビールを開けた。お互いに小さく傾け合い、無言で乾杯をする。
冷たいビールが喉を通り、胃へと流れ込む。
「はー、うまい」
一気に半分ほど飲み干した私と違い、柊介は少ない一口ずつ飲んでいる。
「ねえ、圭。今日の月は綺麗だね」
私たちの間に愛はない。けれど不仲でもない。寧ろ、男女にしては仲が良い方だと思う。だけど。
「それは……清史さんに言ってあげな」
私は、死んでもいいわ、と言うことが出来ない。
9/14/2025, 2:09:36 PM