【雨に佇む】
嵐のように雨が吹き荒れた日だった。
静まり返った公園で、君がずぶ濡れになりながら空を見ていたのは。
「ね、ねぇ、ちょっと」
僕は慌てて声をかけた。
どうしたの? 何してるの? 風邪ひくよ?
なんて言おうかなんて思い付いてない。ただ、雨に濡れるのは悲しい事だと思っていたから、急いで傘を刺したんだ。
なのに、君は。
「どうしたの、良い天気なのに」
と惚けたように話すから、僕は面食らってしまった。
なんだって?
良い天気だって?
「どこをどう見たらそうなるんだ」
「私にとっては良い天気なんだよ」
ふふふ、と笑う君に僕はついていけない。
とりあえず傘を刺したまま、僕は彼女の隣に立つことにした。
近くの道路からは車の行き交う音がする。
たまに道を散歩する人が通りかかったが、挨拶をすることもなかった。
「あのね」
君が話しだす。かなり時間が経っていた気がした。
「なんだい?」
「あなたは忘れているかもしれないけど、雨の日は私たちが初めて会った日なの。私にとって雨の日は、幸せの日なのよ」
君はチラッと僕を見ると、また空を見た。
「雨が止んだら私は帰らなきゃいけないから……本当は止んでほしくないんだ。だからもっと降ってほしいなって空を見ていたの」
「なんだ……そんな事で」
「そんな事じゃないよ」
今度は、しっかり僕を見て……彼女は笑った。
「雨でも降らないと、あなたは私のこんなにそばにいてくれないでしょ?」
そんな事は、ない、とは言えなかった。
話すのはそんなに得意な方ではないから。
「もうちょっとだけそばにいてね」
それだけ言うと君はどこか満足そうだった。
僕は、どうしようか。
なんと返事をしていいかわからないまま。雨が止むまで肩が触れそうな距離にいた。
8/28/2023, 3:16:54 AM