122.『静かな終わり』『星に包まれて』『よいお年を』
「よいお年を」
そう言って職場を後にする。
それからも何人かとすれ違ったが、あいさつもそこそこに退散した。
愛想は悪いだろうが、まともに相手している時間はない。
実家に帰るための飛行機に間に合わないからだ。
もう少し早く帰れると思ったのだが、例年以上の仕事量に残業となってしまった。
仕事納めだというのに、慌ただしいことこの上ない。
けれど文句を言っても、飛行機は待たない。
余計な仕事を押し付けられないよう、さっさと帰るに限る。
予約した飛行機に乗れば、ギリギリ年内に帰ることができる。
実に5年ぶりの帰省だ。
今年こそは、家族と一緒に新しい年を迎えたかった。
久しぶりに食べる母の料理が楽しみだ。
父はDIYにハマっていると聞いたが、飽きてないなければいいけれど。
姉夫婦に生まれた子供とも初めて会う。
数年ぶりの家族との再会に、私の胸は高鳴っていた。
けれど現実は無常だ。
「着陸先の積雪により、当機は引き返します」
何ということであろう。
遅れるどころか、振り出しに戻る。
年越しに間に合わないことが確定した。
家族と過ごす賑やかな年末が、一人ぼっちの静かな終わりになろうとは……
全くの計算外。
脱力しながら、シートに体を沈める。
機内にいるほかの客からも、落胆のような呻き声が聞こえる。
みんな、思うところは一緒らしい。
だが、そんなことは何の救いにもならない……
本当についてない。
溜息をつきながら窓の外を見て――
――窓から見える景色に目を奪われた。
きれいな星空だった。
地上とは違う、横にも星が見える大パノラマ。
『星に包まれて』という表現がピッタリな幻想的な景色。
これほど素晴らしい景色を見たのは初めてだ。
頭がいっぱいで気づかなかったが、まさか外でこんな光景が広がっていようとは……
神秘的な光景を前に、私は圧倒されていた。
と、どれくらい眺めていただろうか。
ふとあることを思いつき、パシャリとスマホで写真を撮る。
撮れた画像を見て、自然と口角が上がる。
最悪の年末だと思ったけど、案外悪くない。
いい土産話が出来たと思う。
この写真を見れば、きっと姉の子供は喜ぶはずだ。
年は一緒に越せなかったけれど、来年はいい正月を過ごせそうだ。
夜空に流れる流れ星を眺めながら、私はそっと目を閉じるのであった。
1/5/2026, 10:23:47 AM