【雨と君】
学校帰りに雨宿りをする場所は
いつも決まっていた
高校と家のちょうど真ん中くらい
ぽつんと建っている古いお店の屋根の下
いつ見てもシャッターが閉まっているから
もうやっていないのかもしれない
雨が止むのを待っていると
屋根の下に君が駆け込んできた
僕と同じ高校の制服
雨宿りしているときに
ここに僕以外の人が来るのは初めてだった
三ヶ月前に入学してきた一年生か、と思った
君は濡れた長い髪を拭いているけど
使っているのが小さなハンカチだから
水気はあまり取りきれていないようだった
屋根の下
一番右端と左端で
なにも話さず雨が通り過ぎるのを待つ
僕は君にタオルを貸そうか迷ったけど
知らない男子のタオルなんて
渡されても気持ち悪いかなと思ったし
話しかける勇気もなかったから
そのままでいた
やがて雨は止んで
君は笑顔で屋根の下から出ていった
その横顔にドキッとしてしまい
僕は一人恥ずかしく思いながら帰宅した
それから
学校の日に雨が降るたび
僕と君は同じ店の屋根の下で
なにも話さないまま雨宿りをした
僕は五回目に君と会ったとき
やっと挨拶ができたけれど
僕以上に大人しい性格の君は
なにも言わずにお辞儀だけを返してきた
六回目には小さな声だったけど
君の方から挨拶をしてくれた
僕は嬉しくて普段よりハキハキした声で挨拶して
あとから自分らしくなくて気色悪い、だなんて
反省会をしたんだったな
僕が君への気持ちに気づいて
少しずつ距離を縮めるために頑張ろうと決意したのも
このころだった
だけど八回目
僕と君が雨宿りをしていると
傘を持った男子が君を迎えにきた
君は僕にぺこりとお辞儀をして
その男子と仲良く相合傘で帰っていく
大きめの傘だから
二人入っても少しは余裕があるはずなのに
肩がぶつかるくらいの近い距離で歩いている
途中からは君が男子の制服の裾まで掴みはじめて
ああ、僕が知らないところで
君は別の人と距離を縮めていたんだなって思った
あの大人しい君が
僕の前では笑うことも少なかった君が
本当に嬉しそうに
僕ではない男の肩に頭を寄せて微笑んでいる
いや、もしかすると
大人しかったんじゃなくて
あまり話さなかったのは
相手が僕だったから?
九回目になるはずの雨の日
君は来なかった
僕はまた一人
いつもと同じ店の前で雨宿りをしていた
空から降る無数の滴に自分の気持ちを重ねながら
9/7/2025, 12:43:15 PM