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『欲望』 2024.3.1.Fri

※BL二次創作 『A3!』 卯木千景×茅ヶ崎至










「眠い」
「寝たらいいだろう」
「腹減りました」
「何か食べてから寝たらいい」
「…………えっちしたい」
「……三大欲求の権化か」

 繁忙期とランイベが見事に重なった月末。全ての山を乗り越えて、なんとか仕事もランキングも予定した通り納めることが出来た。
 その反動が今、どっと来ている。

「ちかげさん……」
「…………はぁ、甘えるときばっかり名前呼ぶの、やめてくれないかな」
「ぴえん」

 通常運転の先輩。そりゃそうだ、紛うことなき自業自得。俺もダメ元でダル絡みしてるだけだから、期待などしていない。
 していないとも。

「茅ヶ崎」
「うー、はい、すみませんでした寝ます寝ます大人しく寝ます」
「まだ何も言ってない」

 ソファーに寝っ転がって唸っていれば、先輩が立ち上がる気配がする。チェアからこちらに向かって歩いてきているようだ。
 ん? と真上を見上げれば、俺の顔を見下ろす先輩の顔。表情は逆光でよく見えない。
 ぼーっと眺めていれば、なぜか顔が近付いてくる。寝不足かつ栄養不足の俺の脳みそは、通常時の回転速度より遥かに遅い。
 事象を認識する頃には既にその距離はゼロになっていた。

「んっ」
「…………」

 キスされてる。
 理解が追いついた瞬間、ぎゅっと目をつむる。ふ、と鼻で笑われた気がするが、いきなりのことで、こちらはそれどころではない。
 は、と息を吸うために口を開ければ、すかさず舌が入り込んでくる。処理落ちしかけの脳みそに、ダイレクトに響く粘膜の接触。ぴちゃ、と水音がするたび、聴覚からも脳を犯されていくような気がして、きゅ、と千景さんの腕に縋り付く。

「ん、ぅ……っ」
「……は……、」

 もぞもぞとみじろぎをするが、逃がさないとでも言うように軽く体重をかけられる。ひく、と喉を震わせ、逃げるように、応えるように、舌を擦り合わせる。
 口の端から唾液がこぼれ落ちかけて、それすらもぺろりと舐め取られる。

 どれほど口を塞がれていたのだろうか。くたり、を通り越してぐったり、の俺。キス一つで、とか言われるかもしれないけど、これは俺のせいではないだろう。

「キス一つですごい顔」
「は、言うと、思った」

 息も絶え絶えに、潤んだ瞳で見上げても、先輩をよろこばせるだけだと、分かってはいる。分かっていても、睨みつけずにはいられない。ええ、ええ、どうせ生意気な後輩ですから。

「急になんなんですか」
「お前の欲望を満たしてあげようかと思って」

 先輩の手が俺の身体を妖しくなぞる。首、胸元、腹、と降りていき、くるくるとへその上あたりを彷徨わせている。

「食欲、性欲、睡眠欲。どれから満たしたい?」

 にんまりと悪戯っぽく笑っている。
 楽しそうでなによりです。(白目)
 俺はほんの数分前の自分の発言を恨めしく思いながら、今後の自分の惨状を想像する。しかし、先に絡んだのは自分である。自業自得というか、むしろ付き合ってくれる先輩に感謝すべきなのでは?

 あらゆる憎まれ口を飲み込んで、羞恥心も放棄する。もともと脳みそバグってる日なのだ、素直になったっていいだろう。
 俺は無言で先輩のシャツの裾を引いた。

3/1/2024, 5:09:33 PM