描きかけのキャンバス、乾いた絵の具、少し量の減った水、洗われないまま放置された筆。
彼がアトリエにこなくなって約二週間。
生活の痕跡を濃く残したまま、彼は忽然と姿を消した。
私は彼が来なくなってからも執筆と掃除のために時々ここには来ていた。
三日ほどしたら戻ってくるだろうと思っていたが、ここまで来ると心配になる。
こういうとき彼は、決まって繁華街に姿を眩ませているかどこかで野宿をしていることが多かった。
夜が来る度に嫌な予感がして、夜が過ぎる度に心のざわめきが大きくなる。
かれは、戻ってくるのだろうか。
今度こそ、戻ってこないのではないか。
3/15/2025, 10:16:42 AM