天津

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1000年先も


「美しい人形ですね」
骨董品屋の店主に話しかける。灰がかったような骨董が並ぶ中で、その人形だけが一際曇りなく見えた。
「その人形は綺麗にしておかないといけないんですよ」
「どういうことです」
「さあ。いわれは知りませんが、障りがあるらしいもので」

少女は人形を、それはそれは大事にしていた。病弱で入退院を繰り返す少女にとって、人形は唯一の友人だった。
少女は人形をどこへでも連れて行った。楽しみを分かち合うように話しかけ、笑いかけた。
人形は少しずつ傷が増えていった。微細な傷を見つけては、いつかはボロボロになってしまうのだろうかと悲しんだ。
ある頃から少女の容態は悪化した。もう長い間退院できていない中で、少女は死期が近いことを察していた。両親がなにか隠しているのも気づいていた。少女はおそろしく、たびたび人形に悲嘆を吐露し、抱き締めた。それから、人形に謝った。
自分が居なくなったあと、人形は捨てられるかもしれない。自分が生きていればそんなことはさせないのに。両親に頼めば残しておいてくれるかもしれない。しかし、人形は少しずつ朽ちていく。今はまだ綺麗だとしても、いつかボロボロになったとき、両親は捨てずにおいてくれるだろうか。
いつまでも綺麗なままにしておけたらいいのに。
百年先も、千年先も。

2023/02/04

2/4/2023, 9:49:43 AM