私は捨て子だった。雪の日の朝、道端で発見された。両親は分からなかった。
私は、施設で育った。施設の大人は優しかったけれど、家族とは違う気がした。家族を知らない私が言うのはおかしいかもしれないけれど。
私は、物語に出てくる『普通の家族』に憧れた。親がいて、子がいて、皆お互いを愛している。そんな『普通』に憧れた。
でも、私にとってその『普通』はひどく遠い存在だった。だって私は『親の居ない可哀想な子』なのだ。どんなに周りの大人が私を愛してくれたとしても、それは変わらないのだ。
私にとって、『普通』は叶わぬ夢だった。それが悔しくて、何度も泣いた。誰かに憐れまれるのが嫌なんじゃない。『普通じゃない』ことを突きつけられるのが苦しくて、悔しい。
叶わぬ夢を追って泣いていた私に転機が訪れたのは、施設を出て、働き始めた頃。
同期の彼は、私のことが好きだと言った。
私は『普通じゃない』私のどこがいいのか分からなくて、ひどく戸惑った。何度も私に根気強く好意を伝えてくる彼に、私は素直にその気持ちを話した。
そうしたら彼は言った。
「普通じゃなくていいよ。そんな君が俺は好きだよ」
普通じゃなくていい???そんな私が好き???私は余計に混乱した。
『普通』こそ、素晴らしいのだ。私は『普通』になって『普通の家族』の一員になりたかったのだ。
反論する私に、彼はまた言った。
「普通じゃなくても、普通の家族を作れるかもしれないよ。そりゃ、普通よりは苦労するかもしれないけど、望めばきっとできるよ。君が許してくれるなら、僕は一緒に普通の家族を作りたいと思ってる」
彼は微笑んでいたけれど、その眼差しは真剣だった。
私はやがて、彼の言葉を信じてみたくなって、彼とお付き合いを始めた。
『普通じゃない』私は彼を困らせることも多かったけれど、2人の日々は幸せだった。彼となら私も『普通の家族』の一員になれるかもしれないと、本気で思えるようになった。
かつて叶わぬ夢と諦めたものは、私の生きる先にあるかもしれない。そう信じられるようになった私の心は、希望で満ちていた。
泣いていた私は、もうどこにもいなかった。
3/18/2025, 4:44:35 AM