『時計の針』
待っている。
返信を待っている時間。
とても長い。とてつもなく長い。
つい流れで真面目な話をしてしまって、二人にとっては大事なことだけど、急にこんな話になって、引かれるかもしれない。
そう思うと、怖くて仕方がない。
今まで傍にあったものが、簡単に壊れてしまうかもしれない。失うかもしれない。そう思うと……。
時計の針を見る。まだ10分しか経っていないじゃないか。そうすぐ返信は来ないだろう。
……何をして待とう。
とりあえず、冷蔵庫に何か食べるものを探して、気を紛らわす。時間を潰す。
『もし子供が出来たら、迷わず産んで欲しい。』
「なんか生理が遅いの。妊娠してたらどうしよう。」なんて、昼間、軽い口振りで言ってた彼女。もしそれが現実だったら。
彼女の返信が来るまで、俺はどれだけチーズ鱈を食べたのか。食べた気がしない。落ち着け、落ち着け……
彼女から返信が来た。
『いいよ。』
ごく、簡単な言葉だった。でも、とてつもなく嬉しくて、打ち震えた。
『真面目に考えてくれたんだね、ありがとう。』
彼女は、俺の言葉を真面目に受け止めてくれた。それが何より嬉しかった。
『実は私も内心、怖かったんだ。』
彼女も、本当はここまでの時間、怖さに震えていたのかもしれない。
『検査もしたよ。陰性だった。』
その言葉に、気付かぬ間に緊張していた肩から力が抜けた。
急に現実味を帯びて、あらゆる先々のことを考えたこの短い時間。覚悟を決めるにはあまりにも短すぎて、そして待っている間の長い長い時間。
とにかく、緊張感から解放されて俺はソファに深く座り込んで。はぁっと、息を吐いた。
でも、考える良い機会になった。
そして、彼女から聴けた返事も、嬉しかった。
一歩だけ、前に進めたかもしれない。
2/6/2023, 12:33:26 PM