「僕にとって君は幸せでいてほしい人でした。
だから、君を悲しませてしまうのは
とても悲しいけど
ごめんね
それじゃ、」
相変わらず手紙を書くのが下手なんだな、と思いながら、丸っこい字を親指でそっとなぞる。手の端がテーブルにそっと置かれた鍵に触れた。冷たい金属の感触が、かつて彼がその物体に触れていたという事実すら忘れさせようとしてくる。
部屋を見回しても、痕跡すらない。いや、一つだけ、彼が今朝使ったであろう食器だけが、彼の指紋をきっと僅かに残している。
「いなくならないで」
そっと呟いてみる。ひとり樹海に佇む彼に、この声が聞こえるはずはない。でも、言わずにはいられなかった。
彼に届けるのは、まだ間に合うだろうか。冷え切った鍵を掴む。まだ、まだ彼のいる場所がわかる内に、どうか、
この手紙を、突き返させてください。
5/20/2024, 5:46:48 AM