【時計の針が重なって】
「今日は楽しかったね」
そう言うあなたは、どこかぎこちない。間もなく日付を回るかという頃、とたんに付き合いたてのような様子になってしまうのだ。
今日は泊まりの予定なのだから、そわそわする必要もないのに。
「楽しかったね。」
かち、かち、と秒針が進む音がする。二人のの距離は腕一本伸ばしてようやくといったところ。秒針のリズムは一定に刻まれているのに、これを詰め切るには途方もない時間がかかりそうだ。
さりげなくソファに座り直して、壁際に座るあなたとの距離を縮める。一定の距離を保ちたかったのだろうか、ただえさえ細身の身体がよりぎゆっと縮こまった。
「そんなに緊張しなくてもいいじゃん」
「……君はもう少し、自分がどれくらい愛されているか考えた方がいい。」
はて。誰にも見せたことのない顔で照れながら、一生懸命絞り出して出した言葉が「好き」。寡黙なあなたが"そう"なるんだから、あなたがどれくらい自分を愛しているかなんて明白だ。……そんな思考を回さずとも、身から溢れるオーラの違いで丸わかりなのだけれど。
じりじりと距離を詰め、ようやくその愛おしい顔がすぐそこに見える位置までやって来た。
「かわいいね」
「そんな風に言っても、なんにも、出てこないよ」
あれだけ聞こえていた秒針も、心臓の鼓動が大きすぎて聞こえなくなった。またふいっと顔を逸らしたあなたの美しい横顔をじっと観察して、にっこり。すこしふくれているようだが、耳や首筋まで赤くてあまりにも愛おしい。
「綺麗な顔だ。」
「……ばか。」
こちらを振り返ったあなたの瞳は丸く潤んでいる。顔にかかる髪を耳にかけてやり、こちらに引き寄せた顔が受け入れようと瞼を閉じる瞬間が好きだ。
カチ。
やわらかさとは反対の無機質な音が部屋に響く。ちょうど時計の針が重なった午前十二時。まだまだ、時間はたくさんある。
9/24/2025, 10:30:54 PM