お題:溢れる気持ち
コップから溢れて机に広がるお酒を見た私は、込み上げる笑いを制御できず口を大きく開いた。
「あっはっはっ」
「笑うなよ」
「だって笑うなってほうが無理! そんなこぼすなんて子供みたい」
それをやらかしたのが普段はしっかりしてるシュウゴだから、なおさら面白い。今日はなぜか表面張力の限界に挑戦したみたいだけど結果は惨敗だった。瓶を置いたあと、シュウゴは無言でティッシュを手にローテーブルを拭く。お酒のせいであらゆるものが緩んだのか、その様さえおかしく思えて私は口元を手で覆った。
一年分くらいの笑い声を出したんじゃないか、そう思いながら後ろに手をついて天井を見上げる。見慣れたシュウゴの家の白い天井。いつもと同じはずの蛍光灯が、今日はふんわり浮いて見える気がした。
「お前だいぶ酔ってんな」
「あんたほど酔ってないしー」
「酔っ払いはみんなそう言うんだよ」
こぼしたお酒を拭き終えたシュウゴが言う。ずずっと音を立てて、なみなみと注いでしまったお酒を啜った。
今日はシュウゴの姿もいつもと違って見える。恰好いいのは相変わらずだけど、可愛くも思えてしまう。さっきお酒をこぼしてたからだろうか。
「好きだなあ」
気づけば口から溢れてしまった。シュウゴの顔は驚きに染まっていて、いまさら発言を取り消すことはできない。
シュウゴは職場の同期の中で一番気の合う存在で、二人で時々宅飲みをする仲だ。いつの間にか私はシュウゴを異性として意識してたけど、今までの関係を壊したくなくてずっと好意を気取らせないようにしていたのに。
「ああ。お酒の話ね」
なんとか取り繕うために一言付け足す。
これで騙されてくれないだろうか。そう願いながらシュウゴを見つめていると、見開かれていたはずのシュウゴの目は決意を宿しはじめた。
「俺も好きだって言ったら、どうする」
抑えようと決めたはずの好意が、さっき机にこぼれたお酒みたいにじわじわ広がる気配を感じた。
2/6/2026, 3:10:03 AM