nami

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時刻は深夜と呼んで差し支えない時間帯になっていた。

「何も起こらないじゃないか……」

思わずこぼれた独り言が、静寂に包まれた部屋の中で虚しく空に溶けた。

先日、引っ越したばかりの友人宅で、夜毎怪現象が起こるというので、それを確かめるために見張り番をしている最中だ。

友人の話では22:00くらいになると窓を叩く音がするのだという。

ただしここはアパートの2階。そしてバルコニーはない。
つまり、誰かが外から窓をノックする──という可能性は限りなく低く、友人はそれを怪現象と捉え、怯えているというわけだ。

22:00はとうに過ぎているが、それらしい怪音はしないし、他に怪しい現象もない。

多分ノック音というのは、間抜けな甲虫かなんかが窓に激突して発せられるものなんだろうと考えている。
というのも、このアパートが建つ場所はかなり自然豊かだからだ。当然、そこを住処にしている虫はかなり多い。

怪現象など起こらないし起こる気配も感じられない。
部屋は深々とした静寂に包まれたままだ。

深夜ということもあって眠気を感じる。
馬鹿馬鹿しいと心で悪態をつき、照明を消そうとリモコンに手を伸ばした時であった。

押し入れから何やらごそごそと蠢くような音が聴こえてきた。

ネズミ……だろうか?
しかし音の感じから察するに、ネズミよりも大きなものが蠢いている気配がする。

正体を暴くべく押し入れの襖に手を伸ばすが、果たして開けてしまっても大丈夫なのか。
もしもその正体が変質者などであったら危険だ。

さすがに身の危険を感じ、この部屋から離れようと判断する。
玄関に向かおうと押し入れに背を向けた直後だ。

ゆっくりと押し入れの襖が開く音がした──


テーマ【静寂に包まれた部屋】

9/29/2022, 11:56:44 AM