まこここ子

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 このまま声も上げられずに、私は殺されてしまうんだ。静かな部屋の中でそう思った直後、聞こえてきたのはパトカーのサイレン。
 薄暗い部屋に、不意に光が射し込んだ。窓ガラスが割れて、カーテンが開いて、ベランダから人が入ってくる。ここは、私の予測が間違っていなければ、たぶん2階だ。
 あの人は嫌な顔をして、入ってきた人たちに見せつけるように、私の首に包丁を押し当てる。近づいたらこの女を殺す、と大声で喚いている。しかし、後ろからも聞こえる足音と人の声に、何かを察したのか、直ぐに包丁を下ろした。
 ああ、ようやく助けが来た。懐中電灯で外にモールス信号を打ったのがよかったのか、私がいないことを不思議に感じた知り合いが動いてくれたのか。なんにせよ、この部屋から1ヶ月も出してもらえなかったのが、やっと見付けてもらえたのだから。
 ベランダから、そして玄関から入ってきた人たち……警察が、あの人を捕らえる。後ろ手に手錠をかけて、無線というのだろうか、何か通信機具のようなもので、他の警察に現行犯逮捕だの何だのを伝えている。その合間に、私のほうにも警察が数人駆け寄ってきて、大丈夫ですか無事ですかと目まぐるしく質問してきた。
 警察の質問に答えている私の後ろで、あの人は玄関の方向に連れ去られていく。引き摺られて服の繊維がちぎれる音が聞こえる中、あの人は最後に言った。
「……お前は、俺から離れられねえぞ!」

 そして10年。あの人の死刑が執行されてもなお、私はあの人の言葉に恐怖を植え付けられたままでいる。

9/28/2024, 12:34:16 PM