雨の中来ない人を待ち続ける君を、好きになった。
恋愛とかそういうものじゃなくて、その人の在り方に惹かれた。自分が目指していた人物像が目の前で意思を持って動いているようで感動したんだ。
傘を差し出したとき君は驚きながらも嬉しそうに振り返ったあと、すぐに待ち合わせ相手とは違うと気づいて泣きそうな顔をしていた。たったそれだけの仕草で君が羨ましくてたまらなくなった。そうやって誰かを想って一喜一憂できる姿がとても眩しかった。
どれだけ親しくなろうとも、どれだけ言葉を重ね行動を共にしようとも、君が待ち続ける人へ向ける想いとは比べ物にならない。思い出は美化されるものだと分かってはいたけど悔しいものだ。まさか一生それが覆らないなんて予想外だった。
でも最期の最後、一瞬だけ僕と目が合った。それまでは透明なガラスを挟んで向かい合うだけだったのが、直接その視界に僕を映して視線を突き刺してきた。
――ずるいひと、
その言葉をそっくりそのまま返してやりたい。
確かに最初はあまりにも僕の理想そのものすぎて、嫉妬から君の在り方全てをめちゃくちゃにしてやりたいと思ったさ。でもできなかった。その魅力に僕の方が先にめちゃくちゃにされてしまったから。
そこからは君の独壇場だった。無茶な要求も理不尽な訴えも全てが愛おしくて逆らうこともできなかった。そうしなければ何の取り柄もない僕を君は置いていってしまうだろうからね。必死だったんだよ。
結局、君は僕を置いていくんだ。過去のアイツを忘れさせることもできない不甲斐ない僕を残して遠くへ行ってしまう。こんなにも、こんなにも僕は、―――。
―――わたしも、あなたひとりだけよ
君も、僕も、肝心なことだけは口にできない。
そこだけは、似た者同士でいられたね。
【題:ただひとりの君へ】
1/19/2025, 3:47:28 PM