わをん

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『胸の鼓動』

夏休みが明けて二学期。小学生の時から同級生の男子があか抜けて格好良くなっていて、女子たちからなんだか視線を集めている。胸にもやもやしたものを感じなくもないけれど、ただの同級生だし付き合っているわけでもないので、なんらかのエラーが起こっているのだと思うようにしている。
そんな彼とは小学生の時から住んでる場所が変わってないので登下校はだいたい一緒になる。下駄箱をじっと見つめていたのを不思議に思いつつも外へと出たとき、彼が言った。
「そういやこの前、下駄箱に手紙入ってた」
「えっ。それどうしたの」
「アドレスとか名前とか書いてたけど、誰かわかんなかったから捨てた」
「えぇ…。見ず知らずでもひどいことするねぇ」
「見ず知らずだから捨てられるんだよ。知ってるやつだったら誠実に対応するよ」
その口ぶりからすると過去に何度かもらっているのだろうかと想像して、またもやもやとしたものを感じてしまった。ラブレターのことを大して面白くもなさそうに話した彼に尋ねてみる。
「誰だったら誠実に対応する?」
「それ聞く?」
「興味はあるね」
クラスにいるかわいい子や人気のある子を思い浮かべていると、返ってきたのはおまえ、という一言。
「えっ、わたし?」
「……そう」
誠実に対応するということは、どういうことだろう。
「アドレス、は知らないんだっけ。わたしの」
「うん」
「知りたい?」
「……教えて」
家路への歩みを一旦止めて、スマートフォンを互いに合わせる。
「ありがと」
「ど、どういたしまして」
それから歩みは再開されたけれど、何を話したのだったか、それとも何も話さなかったのか記憶があやしい。ただ、胸のもやもやとしたものの代わりに自分の鼓動がうるさいほどに鳴っていたのは妙に覚えている。

9/9/2024, 3:57:19 AM