となり

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 常に誰かの真似をしていた。ていのいい言葉を並べて人の輪の中へ入り、深く干渉される前にいなくなる。『都合のいい人』扱いされたならお互い様だ。何があったって本当の私を知らないくせに、と心の中で悪態を吐けば大抵のことは水に流せた。悪口も称賛も全部『造り物』への言葉で、模倣すればするほど上手くなる『それ』は特別を作る必要もなく、また特別になり得もしなかった。
 いつからだろう。軋んで鈍くなる歯車に気付かず、冷たく行き場のない感情が重い音を立てて積み上がっていったのは。見通しの悪い迷路をわざと選び彷徨い歩くような自傷行為。何でもないふりをして言い聞かせてきた軌跡は、何もかもがレプリカで出来ている。
 本当の私ってなんだっけ。答えの出ない質問を頭の中で反芻する。傷つけられないよう殻に篭って大事に大事にしてきたはずの存在は殻が割れてしまえば中身は空っぽだった。好きなことも、嫌いなことも、やりたいことも、欲しいものも、全て真似たものでそこに『私』はいない。
 偽物の心と本物の心がちぐはぐになり、ばらばらになって形を成さない。せめてミルクパズルのピースみたく一面真っ白なら綺麗だと言えたのに。墨汁を零したような黒い跡がこびりつく歪な欠片に落ち着く場所は無かった。誰かを頼ろうにも築いてきた関係は嘘偽りでしかなく、心の何処かで笑い者にしてきた自分にそんな資格はなかった。


#何でもないフリ #心と心

12/12/2024, 12:25:00 PM