青と紫

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目の前に、胸に包丁が刺さった血まみれの男が

倒れている。

彼の顔は知っている、というより、ずっと毎日

見てきた顔だ。何度も見たおかげで、頭から離れない、

これからも新しく記憶していくと思っていたその顔。

だけど、その顔は今青白く、私を映していた瞳は固く

閉じられ、抱きしめてくれた腕はもう動かない。



彼は、死んでいた。

私と2年付き合った男は、心臓を貫かれあっさりと

死んだ。いつも清涼な空気を纏っていた彼には

似合わない、醜い断末魔だけを最期に残して死んだ。

たった一つ、残した悲鳴の余韻さえもすぐ消えて

しまった。



彼は私の全てだった。成長しきらない私の小さな心の

中に、彼は巨人のように居座っていた。彼がたまに

ふらっと他の女の子に遊びに行くと、彼がいた分の空白

がただただ空しくなって、残り香に彼を思い出してしま

うくらい彼を愛していた。

彼が出ていって、戻ってきて、出ていって、戻ってきて

を繰り返して、初めの頃を忘れてしまいそうになって、

さっき、

「別れよう」

と告げられたんだった。 

それで、頭に血が登って、すぐに血の気が引いて、

一瞬目の前が暗くなって、目を再び開いたら、






…チまみレの、キ、ミが、い、タ



あんなにかっこよかったのに、彼が死んだのは

一瞬だった。たった女の一撃で彼は絶命してしまった。


愛していたのに、殺してしまった。

憎んでいたから、殺してしまった。

彼の胸から流れ出す赤い血は止まらずに床に模様を

描いた。

彼は死んだ。私の人生だった彼は死んだ。

でも死んで当然だとも、思うのだ。



彼がいなくなったあと、私はどうすればいいの?


間もなく来るであろう、死亡宣告するためだけの

救急車のサイレンを空に聞きながら、

ただぼんやりと

頬に涙を、手に生温い血を、感じていた。



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「あなたが憎い」

どうすればいいの?

11/21/2023, 12:10:29 PM