君と手を取りあって、ここから出る夢を見続けている。
どんな世界にも永遠なんてものは存在しないわけで、今日私たちは終焉を迎えることになった。明確にいえば星の終わり、隕石の追突による逃れられない世界滅亡。
どこぞの映画のように宇宙の外に新たな星を見つけたとか、巨大な宇宙船で暮らせるようになったとかいう希望はなく、ただひたすらに終わりを待つことしか出来ない。
数週間前に知らされて以来、世界はとっくに諦めムードで、家にとじこもる人、遊びに出かける人、大切な人と過ごす人、いつも通りに過ごす人、色々だった。私はと言えば数少ない友人に会うため街に飛び出し、すっかり変わってしまった街に適応できず迷子になってしまったのだった。
世界最後の日に迷子になって1人で死ぬとは、なんと愚かで情けない最後だろうか。誰にも会えない街灯の下で、どうすることも出来ず突っ立ていた。
いつだったか、昔にもこうして迷子になったことがあった気がする。あいつを探して街に繰り出て、迷子になり……あの時はどうしたんだったか。私はあいつの元に辿り着けたんだろうか。
そんなことを考えていると不安になってきて、もういい歳なのに目が潤んでしまう。
このままあいつに会えず、言いたかった愚痴も、怒りも、思い出も、感謝も、何も言えず、私は終わってしまうのだろうか。
そんなどうしようも無い絶望に、私の心はズタズタに切り裂かれて、仄かなオレンジのスポットライトの下にうずくまるしかなかった。
「私ね、君と一緒なら世界だって救える気がするんだ。」
最後に会った日、あいつはそんなことを言っていた。あの時は馬鹿なことをと一蹴したが、今この現状を思えばそんな戯言でも本当であって欲しいと願うばかりだ。
もしも世界が救われたら、救えたならどうしようか。予定ばかり話してついには行けなかった遊園地にでも行こうか。食べたかったパンケーキ屋に並んでみようか。やろうと話したまま埃を被ったゲームの続きをしようか。見たかった映画を見ようか。あの日言えなかった言葉の続きを話そうか。
もしも私たちがもう一度会えたなら、手を取りあって、隣に立てたなら、世界だって救えるんだろうか。
棒のようになった足を震わせて、最後の力を振り絞って立ち上がる。目指すは何度も諦めたあいつの隣。今度こそ、その手を掴んでみせると誓って。
何十分、何時間も走り回って、あいつの後ろ姿を見つけた。あの日から今日に至るまで何をしていたのかは知らないが、あいつは全身ズタボロで、立っているのが不思議な程だった。
あいつはとても驚いた顔をしてこっちを見ている。目を閉じて、ゆっくりと息を飲んで、目を開けて、その真っ直ぐな瞳で私を貫きながら、
「もう会えないと思ってた。」
なんて、泣きそうな声で言うのだった。
「君と会うのはすっごく久しぶり。2年ぶりくらいかな。」
「数週間前にあっただろう?」
「そっか、君にとっては数週間前だった。」
どうにもこいつとの会話は要領を得ない。が、そんなのはいつもの事だった。こいつはやけに人懐っこいくせに、どこか遠くて、不思議で、掴みどころがない。ふと気がついたらどこに行ってしまいそうやつだ。
「もう何度も、何十回も何百回も繰り返して、会えなくて、もう君が死んじゃったんじゃないかって、全部手遅れだったんじゃないかって、不安だったんだ。」
「そう、か。だが、今度は会えたな。」
「うん。やっと会えた。」
「私が死ぬほど頑張ったからな。」
目の前のこいつは冗談だと思って笑っているが、冗談抜きで死にそうだった。崩壊寸前の世界を走るのは実に危険な事なのだ。
「でも、今度こそ上手く行きそうな気がする。君が隣にいて、手を取って、一緒にいられる。それなら私は世界だって救えるんだ。」
「それなら早くしよう。一緒にやりたいことが溜まってるんだ。」
お前と一緒なら、どんな夢だって現実にできる。
7/14/2024, 2:20:48 PM