愛し子に
「サルム。こちらへおいで」
とある日の夜。魔女様の部屋に入った僕はベッドの上に座る魔女様に手招きされる。優しいその声に僕の心がとろりと溶けていくような緩やかで、穏やかな気持ち。
魔女様の足元に跪けば、魔女様は「こっちよ」と言って自身の隣を指差す。
「……魔女様。従属を寝台の上に招くのはどうなの?」
「あら、私が許可しているからいいじゃない。さぁ、おいで」
手招きされて、僕はおとなしく魔女様の隣に座る。魔女様は僕の頭を撫でる。いい子、いい子と言われて、喉が勝手にきゅぅ、と鳴いた。
もっと、もっと褒めてほしい。僕を見て。
僕のことを愛してほしい。
「嬉しい?」
「……うん」
恥ずかしくて思わず俯くと、魔女様の細い指が僕の顎を優しく掴む。そのまま視線が魔女様の青い瞳と合う。
「ふふ。可愛いね、サルム」
「僕のことを揶揄わないでくれるかい?」
「私は本当のことを言っているだけよ?」
にこりと微笑む魔女様。
その青い瞳をじっと見つめていると、心の奥の奥まで見透かされそうな気がした。僕が魔女様に向けているこの愛情も欲望も。この全てが魔女様に知られてしまうのは怖いと思うけれど、知ってほしいと思っている僕もいる。
「可愛いね、サルム。私の従属。ずっと私の側にいてくれるでしょう?」
「もちろん。僕は君の側にいる。何があってもね」
「ふふ、ありがとう」
魔女様が僕のことを抱きしめる。
それがまた嬉しくて、僕の喉が勝手にきゅぅ、とまた鳴いた。
「ねぇ、魔女様」
「なに?」
「魔女様の言葉一つ一つが僕の心を満たしてくれるんだよ。僕はそれがものすごく心地良いんだ」
「うん、知っているよ」
「魔女様に従うのは、従属としての喜びを感じる。でもね、褒められたらもっと嬉しいんだ」
「そうね」
魔女様の温もりに包まれて、僕の頭はまるで水の中にいるかのようにふわふわと浮かれていた。僕の両手は魔女様の肩を掴んで、彼女を少しだけ離して、魔女様と目を合わせる。
「どうしたの?」
「魔女様」
「?」
「ねぇ、今夜は沢山僕に命令して?抱きしめてあげるし、キスもしてあげる。愛の言葉が欲しいなら、沢山囁いてあげる」
「その前に、渡さなくてはいけないものがあるの。左手を出してくれる?」
言われるがまま、僕は左手を差し出す。魔女様は僕の左中指に深い青色の宝石が嵌められたシルバーのリングを嵌めた。
「これは……」
「大切な君に、私からの贈り物。私の魔力を込めたお守りよ。大事にしてくれる?」
「もちろんだよ、魔女様」
僕が返事をすれば、魔女様は笑って懐からもう一つ指輪を取り出した。デザインも僕のものと同じで、少し小さめの指輪だ。
「魔女様も着けるの?」
「ええ。だって、お揃いじゃないと嫌でしょう?」
そう言って魔女様は左中指にその指輪を嵌める。細くて白い指に青い宝石がよく映えていた。
魔女様のお揃いのものがあるというだけで、気分が高揚する。自分で思っているよりも僕は魔女様に心酔しているし、魔女様のことが好きなのだと感じる。
僕は魔女様の左手を取り、手を繋ぐ。僕の左手には揃いの指輪が光っていた。
「その指輪、魔女様によく似合ってる」
8/8/2024, 10:24:59 PM