コノハ

Open App

【永遠に】

あと何度この時間を過ごしたら、自分はこの世界を終わらせられるのだろう。次目が覚めると、自分はまた見習い勇者としての冒険が始まるのだ。村長は言う。

「勇者よ、世界の命運はお前の腕に懸かっている。」
「…」
「どうか、わしらを平和へと導いてほしい。」
「…」
「旅の中。お前は幾つもの経験をし、その中お前と同じ志を持つ者たちとも出会うだろう」
「…」
「この旅はきっとお前を一回りも二回りも成長させることだろう」
「…」
「これはわしからお前への餞別だ。では、武運を願う」

村長から勇者見習いの剣を譲り受けると、ここから道中出くわすであろう雑魚モンスターを倒しつつレベルを上げ次の村を目指すことになる。そして、その村で村人たちの相談事を全て解決すれば、次の村へと向かうのだ。これを何度か繰り返し、自分のレベルを上げ王都を目指す。そこでは勇者として依頼屋から依頼を受け取り自分の評判を上げ、王宮に呼ばれ王様へ謁見、王様の信頼を得るため、今度は王宮内で騎士たちの相談事を解決していき、最終的にはこの世界を滅ぼそうと目論む魔王を倒し、この国に平和が戻ると俺は王様の娘か村へと残してきた婚約者と結婚を選択され、エンディングを迎えることになるのだ。
これを幾度となく繰り返してきた。この事実に気づいているのはこの世界ではどうやら俺だけなのだ。皆、何の疑問を抱くことなく同じ台詞をさも今発したかのように何回でも話すのだ。それも恐ろしいことに俺自身も俺の意思とは関係なく、まるでこの台詞が決まっているかのように口が勝手に言葉を発する。それも何度も同じ台詞を。行動も決められていて自分が行きたい方へ歩みを進めようとしても、自分の足なのに自分の意思を無視してどこか別の方へと進んで行く。何故なのか?独りではないのに自分ひとりが取り残されたこの焦燥。そして再び同じ世界が繰り返される。俺は自分のベッドで目覚め、勇者見習いとして冒険をスタートさせる。何度倒したかわからない魔王を倒し、世界を平和へと導く。終わることのない冒険がまた始まる。永遠に。

11/1/2024, 6:23:54 PM