花咲いて
脳内でけたたましく鳴り響くサイレンが、早く描けと僕を急かす。
なのに描けない。描けない。どうしてか、描けないんだ。
気づけば、真っ二つに折られた筆が、こちらを睨むようにして床に転がっている。イーゼルに固定されたキャンバスは、黒に飲まれて死んでいる。
筆を拾い上げる気力など残っていなかった。キャンバスを取り替える力もなかった。
絶望にも似たなにかが、僕の耳元で問いかけてくる。
――可能性なんて、最初から無かったらしい。
僕の蕾は、開花を知らずにしぼんでいく。そして、埋もれていく。次々と開花する花たちに押しつぶされながら。
黒く塗りたくったキャンバスに、涙が滴る。
諦め方を知っているのに、もがき方を知らなかった。
こうして僕は枯れていく。水も、陽の光も注がれずに。
ただ真っ暗な閉鎖空間で、絶望に涙を流す。
こうして自分を枯らすことしか、もう僕に出来ることは残されていなかった。
7/23/2023, 8:11:18 PM