特にやることもなく暇つぶしにテレビをザッピングしていると、目についたのは社交ダンスの番組だった。有名タレント達が何組かコンビを組んで、大会に出場するという趣旨のもの。
別に興味があったわけではないけれど、なんとはなしにリモコンをテーブルに戻してタレント達が舞う様を眺めた。練習なのだろう、汗で前髪を額に張り付けたジャージ姿で、クルクルと舞う姿は不思議と美しくて。照明を反射してキラキラと輝く汗すら綺麗に見えるものだから、思わず感嘆の声が洩れる。
ダンス、と名のつくものは体育祭だとか授業だとかで少ししてみた程度で、本格的なダンスは嗜んだことがない。楽しいのかなあ。楽しいだろうなあ。でも、わたしには無理だなあ。そんな風に思いながらテレビに釘付けになっていると、同居人の彼がいつの間にか傍に来ていたらしい。トントン、と軽く肩を叩かれる。
「何?」
「や、声かけても反応ないから。どうした。珍しくテレビに熱中してるね。こういうの、興味あった?」
彼の質問に、ウーン、と呻る。少しの間、思考する。興味。興味か。
「踊れるとは思わないけど。まあ……あんなふうに真剣に取り組んだら、楽しいかなあって」
「……フーン」
すると今度は彼が考え込むような素振りを見せた。かと思うと、ニコリ、と微笑んだ。
「……じゃあ、やってみる?」
「うん。……えっ?」
「ダンス。別にテレビみたいに難しいのにチャレンジする必要はないし。君がやりたいなら、俺も一緒にやるよ?」
「ええ、急になんで。それに、なんで一緒?」
「だって、テレビを見る目がキラキラしてたから。……というか、他の男と踊るつもり? 俺とにしてよ」
笑っていたのに、突然ちょっぴりムスッとした様子の彼に、申し訳ないけど今度はこちらが笑ってしまった。まだ見ぬ幻想のダンスのパートナーに妬く彼が、あまりにも可愛らしかったので。
「わたしが他に、誰と踊るっていうの? ……踊ってくれるんでしょ?」
おどけたように笑ってから、手の甲を上にして、彼に差し出してみる。びっくりしたように目を丸めた彼は、次第に顔に喜色を乗せながら、そっとわたしの手を取った。
「こういうときは、Shall we dance? って言えばいいのかな」
「ふふ、クサいよ」
今から、主役はわたしたちだ。
テーマ「踊りませんか?」
10/5/2024, 9:23:29 AM