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キャンドル


「今日はこのへんにしておきましょう」
PCの向こうの生徒達に語りかける。オンラインの英語教室。しばらく出勤できなさそうだと伝えると、室長が提案してくれた。便利な世の中になったものだ。

眼鏡ケースをわきにどけてマグカップを置く。
カフェインレスだが香り豊かなコーヒーだ。ここしばらく刺激物は避けている。もうしばらくはこの生活を続けることになるだろう。

コーヒーを飲み終え、痛む足をかばいながらキッチンへ向かった。だいぶましになったが出歩くのはまだ先になりそうだ。食器を洗いベッドサイドの椅子へ移動する。なんでもない動きが今はつらい。

明日は授業の予定はないから一日翻訳に使えるな。
ため息をつきながら考える。
もともとは在宅仕事だが、昨年から引き受けた授業のために外出するのはいい気分転換だったのだ。授業までオンラインとなった今、ずっと家にいるのは少々息苦しい。

読みかけの本を手にとろうとテーブルに目をやるとスマホの通知が届いた。照明を落とし明かりをベッドサイドのランプだけにしたので薄暗い場所で光っている。この位置からだとまるで青白い炎のようだ。

キャンドルを買おうか。
光を眺めながらふと考えた。
仕事終わりのひととき、暖かなオレンジ色の光に包まれて過ごす日があってもいい。柄にもなく落ち込んでいるひとりの翻訳家のこころを照らしてくれるに違いない。

11/19/2023, 12:08:05 PM