川柳えむ

Open App

 逃げ出した。
 きっと疲れていたんだ。
 いつも通り出勤していた。なのに、会社の最寄駅に着いたっていうのに、足が動かないんだ。
「いきたくない」
 そのまま、電車のドアは閉まり、こんな自分を乗せたまま進んでいく。
 ……どこに行くんだろう?
 どうしよう。今引き返せばまだ間に合う。でも、体が、心が、行きたくないと言っている。
 なら、もういいや。このまま、行けるところまで行ってやろう。電車に乗って、どこまでも。
 こうして、初めて無断欠勤をしてしまった。
 窓の外の景色は、都会から少し田舎へと姿を変えていく。
 終点まで来て、僕は電車を降りた。
 さっきからスマホが鳴りっぱなしだ。スマホの電源を切ると、辺りを散策してみることにした。
 個人経営だろう店が駅前にぽつんとある。しかし、まだ開店していない。他の店は見当たらないし、少し先は閑静な住宅街といったところか。どうしようかな。
 適当に少し歩くと、見たことないローカル線が走っていた。
 今度はそれに乗って、行けるところまで行ってみることにした。こんな行き当たりばったりの旅も楽しいね。
 列車に乗って、どこまでも。僕の心が晴れるまで。


『列車に乗って』

2/29/2024, 10:31:47 AM