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言葉にならない。

 中学三年生の冬。そろそろ中学生にとっての一大イベントでもある受験が近付いている。

 俺は深夜遅くまで入試の過去問を解きながら二月に行われる公立入試に備えていた。

 そんな、俺でも彼女が居る。名前を神崎 浪華と言い。俺と違って高スペックのお嬢様だった。

 彼女の家は、ある程度発言権が強い家柄であり、どうしても娘である浪華に重いプレッシャーを掛けられている。

 正直、人の家柄のやり方に文句は言わない。本人としても、あまり触れてほしくない話題でもあり、俺は目を光らせつつも手を出さないようにしていた。

 そしてある日。

 いつものように、深夜遅くまで過去問を解いていると、突然スマホが鳴った。

 スマホを見ると、そこには浪華と付き合うキッカケを作って貰ったり、浪華と共に一緒に遊んで貰った近所の兄ちゃん的存在の宮下 蓮から電話が掛かってきていた。

 珍しいなと思いながら電話に出ると、何時もの明るい声じゃなくて折半詰まっている声で俺にひとつの事を聞いてきた。

「お前……浪華に何があったか聞いてるか?」
「何も聞いてないけど……」
「分かった。心して聞け」

 浪華に何かあったのか? 何かに事件にでも巻き込まれてしまったのだろうか? 

 しかし、そんな淡い考えは兄ちゃんから告げられた事で完全に壊された。

「浪華が自殺した」

 文字通り、声が出なかった。口を動かそうにも言葉が一切出てこない。
 
 なんで? なんでなんで? 

 なんで浪華は自殺なんてしたの?

「今からバイクでそっちに向かう。病院に行くぞ」
「……はい」

 俺は、返事だけを残して直ぐに電話を切り、クローゼットから普段から来ている黒のジャケットを羽織、父さんの声を無視して外に出る。

 
「ホレっ! これ被って行くぞ」
「ありがとう!」

 外に出ると丁度良く着いた兄ちゃんからヘルメットを貰って兄ちゃんの後ろへと乗る。

 普段ならバイクなんて怖い乗り物として恐怖の対象になっていたのに、この日は気が気じゃ無かったのか、特に恐怖心無く乗れていた。

 数十分後、近くの総合病院に着いた。

 ヘルメットをバイクの上に落ちないように置いて、走って病院の中へと入る。

「ちょっと! 病院の中は走らないでください!」

 後ろから看護師の声が聞こえるが、そんなのどうでもいい。まずは浪華が第一だ。

「失礼します」

 兄ちゃんが四回ノックし中に入ると、そこには涙一つも流してない浪華の両親と白い布が被っている人がいる。

 信じたくない。

 けど、頭では完全に理解している。

 両親が何か言っている様に聞こえるけど、兄ちゃんが止めてくれてる。

 ありがとう兄ちゃん。何が何まで。

 俺はそっと顔辺りにある白い布を静かに取る。

 白い布を取ると、そこには生を感じられない浪華の顔があった。

 俺はしばらく浪華の姿を見て、直ぐに白い布を被せた。

「怜くんかな? 今すぐに出ていってもらえないかな?」

 俺は固まる。両親と話すら出来ないの?

「はっ?」
「良いよ。兄ちゃん。分かりました。ここで失礼します」

 そう言って俺は病室の外へと出た。

 俺はバイクの所まで一歩一歩噛み締めるようにゆっくり歩いていく。

「ハハッ。浪華の両親にあー言われちゃ出るしか無いだろうよ。ちくしょうが……」

 少しずつ視界が滲んで行く。

「なんでなの……何が君をそこまで追い込んだの? ねぇ……教えてよ。約束したじゃん。辛い事があったら相談するって。なんで相談してくれなかったの。ねぇ……教えてよ浪華」

 兄ちゃんのバイクに両手を置いて地面を見ながらそう言葉を零していった。

 空は星たちが過去の姿を地球に映している中、俺は一人で泣いた。中三にも関わらず泣いた。

「怜……」

 俺の事を呼ぶ声がした。顔を上げると目に涙跡が残っている兄ちゃんの姿があった。

「兄ちゃん」
「これを……浪華の遺言だ」

 俺は浪華の遺言を兄ちゃんから貰う。

 兄ちゃんは俺を気遣ってバイクの所で待ってて貰ってる。

 近くのベンチに座り、遺言を開いて読んでいく。

『怜へ。この手紙を読んだ時には私はもう生きていないでしょう。でもね。勘違いしないで? 怜が嫌いになっちゃってとかじゃないから! ただ、疲れたんだ。毎日毎日父さん母さんからのプレッシャーとかさ、上から圧されて疲れたんだ。多分、君は「相談してくれよ!」とか思ってくれてるかもしれない。自意識過剰かな? でも良いや。最期のわがままくらい聞いて欲しいな。でも、本当はもっと怜と居たかった。ずっと一緒に居たかった! 私の初めてを怜にあげて、同棲して、結婚して、子供産んで、一緒に孫を見て、一緒に老後を過ごしたかった! でも、私の事情にも怜を巻き込ませたくなかったの。これだけは知ってて欲しいよ。長くなっちゃったけど……短い間だったけどありがとう。私の大好きな初恋の篠宮 怜。神崎 浪華より』

 手紙の上に大粒の涙が落ちていく。

 手紙に涙が染み込んでいくのも関わらずにひたすらに泣いた。

 今日だけで何回泣いたんだろ。でも、泣き止められそうに無い。

 この手紙に、浪華になんて言えば良いの……。

 そして、俺は月の光に……浪華の様な明るさを感じながら枯れるまで……泣き続けた。


 

4/12/2023, 9:24:20 AM