雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

Open App

―鋭い眼差し―

「ねぇ、君、大丈夫?」
その子はそう言うと前触れもなく、
下を向いていた僕の顔を覗き込んで来た。
『なっ…な、何が?』
あまり驚いたので、声にもそれが伝染ってしまった。
「え、何がって、君、すごく顔色悪いじゃない。
君の顔見れば、誰だって心配になるわよ…誰だって」
うっ、と、思わず声が漏れそうになった。
まずい、誰が見ても心配になるくらいの
顔色してたなんて。
そんなことしたら、周りから注目を浴びてしまう…
そんなことを思いながらも、僕は平然を取り繕った。
『そうかな?…あ、明日はテストがあるから、
それで緊張してたのかも。気にかけてくれてありがとう』
それで会話を切るつもりだった。
礼は言ったし、大丈夫だろう、と。
でも、
「待って。理由、テストだけじゃないでしょう?
何があったの?」
この子は違った。立ち去ろうとして踵を返した僕の腕を
パシッと掴んだ。
逆らうようなことはしたくなくて、
なんでもない素振りをした。
『なんでもないよ。大丈夫だから』
そう言って、ただただニコニコと笑う。
すると、
「なんでもないわけないでしょう!!
なんで大丈夫だって言い切れるの!」
彼女が声を荒らげて言った。
彼女は怒っていた。明らかに怒っていた。
光を宿したその瞳が、本気だった。
「何かあるでしょう、困ってることや辛いこと…
抱え続けて壊れてから後悔するのは君の方なのよ」
鋭い眼差しが僕を突く。
彼女は不思議な目をしていた。
僕が今までに見たことがなくて、
目線自体は鋭くて、たじろいでしまう程なのに
その瞳の奥の奥には、言い表しようのない、
悲しみが含まれているような、そんな目をしていた。
目を合わせれば、その眼差しに
吸い込まれてしまいそうだった。
だから、僕は目を伏せ、俯いていた。
そして、気づいた時には、
『…辛いんだ』
口が動いてた。
絡まることなくスラスラと出てきた言葉が、
彼女の怒りの表情を変えた。
彼女は、憐れむような、心の底から心配するような、
怯えたような、そんな、顔をしていた。
ようやく口の暴走が止まった僕に、彼女は一言、
『…そっか。…話してくれてありがとう。
私、君が少しでも楽になれるように、努めるわ。
…だから、今まで、生きることを諦めずにいてくれて
ありがとう。これからは、私が味方になるから』
刹那、目から勝手にこぼれ落ちたこれは、
一体なんなんだろう。
今まで、苦しくて苦しくて、思わず自室で流したものとは、
また違う何か。
あぁ、僕は、こんなにも嬉しい筈なのに、
それは絶対嘘じゃないのに、
どうしてこれほどまでに涙が止まらないんだろう。

10/16/2022, 9:40:14 AM