127.『夢を見ていたい』『どうして』『この世界は』
よう、相棒。
新年早々、牢屋にぶち込まれるなんてツイてない奴だな。
正月気分で浮かれて、お巡りにでも喧嘩を吹っ掛けたかい?
おっと怖い顔するなよ。
ただの冗談だ。
短い間だが、同じ牢屋の仲間同士、よろしくやろうぜ。
まずは自己紹介といこう。
オレの名前はモンテ・クリスト。
あらゆる刑務所から脱獄した、正真正銘の脱獄王さ。
……なんだよ、その目は。
ホントだぜ。
今も脱獄計画が進行中さ。
話を続けるぞ。
オレは、これまでに数えきれないほどの刑務所から脱獄した。
この程度の刑務所なんて、食堂で二人前を平らげるより簡単さ。
オレを留めておける監獄なんてどこにもない。
いつだってオレは自由を求めて外の世界へ羽ばたくのさ。
……なに、何度も捕まっているくせに偉そうだって?
おいおい、勘弁してくれよ。
オレくらいにもなれば、警察から逃げ切ることなんて造作もない。
けれど牢屋にいないと『脱獄』できないだろ?
そういうことだ。
どうしてそこまで脱獄にこだわるのか、理由を聞きたそうな顔だな。
そうだな、色々理由はあるが、一言で言えばロマンさ。
お前はこの世界をどう思う?
オレには、この世界はひどく退屈で、閉塞的で、何の自由もない場所に思える。
夢も希望もどこかに置き忘れたような、つまらない世界さ。
だからオレは脱獄する。
不可能を可能にして、世界中に夢を見せてやるのさ。
そうすれば、このつまらない世界も少しは面白くなるってもんだ。
誰だって夢を見ていたいからな。
……そろそろ時間だな。
ああ、さっき脱獄計画が進行中って言っただろ。
実は今、刑務所の建物の補修で工事業者が入っていてな。
その隙をついて脱獄する。
作業服と鍵は、あらかじめ『用意』してある。
あとはこの牢から出るだけってわけさ。
簡単だろ?
話を聞いてくれたお礼に、アンタも連れて行ってやりたいんだが……
生憎と服が一人分しかなくてな。
悪いがオレだけで脱獄させてもらう。
……なんだ、アンタはすぐに出られるのか。
じゃあ無茶な脱獄するよりここで大人しくしていたほうが利口だな。
それにしても本当に警官と喧嘩したとはね、ヒヒヒ。
俺ばっかり喋って悪かった。
短い時間だったが楽しかったぜ。
アンタ、聞き上手で話しやすいんだよ。
牢から出たらその才能を活かすと良いぜ。
じゃあな。
……
…………
………………
やっと出ていきましたか。
まったくあの人にも困ったものですね……
うん?
看守の私が、脱獄を見逃してもいいのかって?
いいんですよ、別に。
あの人、犯罪者じゃありませんし。
ただの業者の人間ですし。
いえ、フリじゃなくて、本物の職人さんです。
ちょうど、あなたがいる牢屋の壁を直しに来てましてね。
仕事が終わったから、自分の鍵で出て行っただけですよ。
あの人、腕はいいんですが、囚人をからかうのが趣味なんです。
あなたみたいに、何も知らない新入りにホラ話を吹き込むんですよ。
まったく、下手な詐欺師よりタチが悪い。
1/21/2026, 10:50:29 PM