8月が終わったというのに未だに暑いが、今日はそこまでじゃない
夏の忘れ物を探しに行くなら、今日がいいだろう
この町の裏社会は、表の人間にとっては意外なほど、福利厚生がしっかりしている
下手をすれば、そのへんの会社なんかよりよっぽど手厚い
犯罪を行うことで命を失う、もしくは命を奪う可能性があることを除けばな
反社会的組織ってのは、劣悪な環境だと裏切られる可能性があるから、待遇はよくしないとやっていけない、という考えだそうだ
なので、夏の間は休暇やテレワークが多く、出勤も絶対に必要な時だけだった
しかし、暑さも和らいできた今、満を持して、本当なら夏にやっておきたかった仕事
暑さでしくじるリスクを避け、後回しにしていたこの仕事をようやく片付けられる
俺たちと敵対する組織
その幹部の男を抹殺するのだ
奴の行動はすでに把握済み
あとは、計画した場所で手を下すだけ
そのはずだった
俺は自分自身に驚いた
幹部の男は子供を連れていた
引き金を引けない
まさか、俺にそんな心が残っていたなんて
物陰で心臓が激しく鼓動を打つ
どうやら無理そうだ
俺には、子供に父親が殺される場面を見せることはできない
どちらにしろ俺の体は震えていて、正確に撃てない
幹部の男は、子供とともに建物へと消えていく
仕事は失敗だ
夏の忘れ物は、俺の手からこぼれ落ちた
いくら福利厚生がしっかりしているとはいえ、そこは犯罪組織
ここぞという場面で、あんな理由でしくじればどうなるかはわかりきっている
死ななければ儲けもの
命だけしか助からなくても、奇跡的な幸運と言えるような話だ
しかし、不思議と後悔はなかった
俺は、自分がまだ人の血が流れていると、知ることができた
そんな気がして、嬉しかったからな
9/1/2025, 11:42:56 AM