_誰にも言えない秘密_
私にはずっと昔から誰にも教えられない、秘密にしている事がある。それは高校生から使っているシャーペンの中に潜んでいた。
小物が沢山並んでいるお店で一つだけ、凄く惹きつけられたシャーペンがあった。私はすぐにシャーペンをレジまで持って行き購入した。家に帰ってから、そのシャーペンをまじまじ見つめた。こんなにも小物に惹かれたのは初めてだった。ふとそこで、今このシャーペンみたいに、心強く惹かれた彼のことを思い出した。私は少し恥ずかしながらもシャーペンの一番上の部分にある小さな消しゴムに、小さく彼のイニシャルを書いた。その後、そのシャーペンを三年間、大事に大事に使っていた。
今思うと、高校生の頃の自分の行動がやっぱり恥ずかしくなった。…好きな人の名前書くとか…勇気あったなぁ…。
…そういえば、あのシャーペン何処にあるんだろう。
私は、自分の部屋にある棚や箪笥の中を探してみた。引き出しを勢い良く開けると、見慣れた筆箱がコロンと音を立てて転がってきた。その筆箱の中身を覗くと…。
…あった…!
私は思い出の籠った懐かしいシャーペンをそっと握りしめた。上の部分にある小さな消しゴムにはしっかり彼の名前が。…やっぱりちょっと照れるな。…
「…あ。ここに居ましたね。」
ふと、彼が部屋に入ってきた。
「家に帰ったら、貴方が居なくて…。あれ、そのシャーペンは何ですか?」
彼は見慣れないシャーペンに気がついて、私に近づいてきた。
「ふふ、これはね、私が高校の頃に使ってたシャーペンだよ。」
私は大事そうにシャーペンを握る。
彼は私が大事そうにしているのを見て、優しい笑顔を作った
「そうだったんですか。かなり高級そうですね。」
高級そうと言われ、思わず笑いそうになった。
「全然。結構安かったよ。でも、私にとっては凄く高級な物かもね。」
「大切な物なのですね。誰かから貰ったんですか?」
「ううん。違うよ。ただ大切にしていたってだけ。」
眩しい笑顔を彼に見せる。彼は微笑ましく笑った。
「なにか大切な理由があるんですね。」
「うん。ふふ、貴方には内緒だけど。」
そう言うと、彼は気になるなぁと、いたずらそうに笑った。
その後は、いつも私だけに見せてくれる、優しくて微笑ましい笑顔を見せてくれた。その笑顔はずっと変わらない、私が心惹かれたあの笑顔にそっくりだった。
私はこっそり"彼"の名前が書いてある所をチラッと見た。
今思えばこのシャーペンのおかげだったのかもしれない。と、心の中でありがとう。と伝えた。
6/5/2024, 11:30:08 AM