いぐあな

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300字小説

曰く憑きの部屋、その後

 部屋の片隅には盛り塩。床の間の掛け軸の裏と押し入れの天井には魔除けの札。
 高級旅館なのに格安で泊まれるという部屋は完全に曰く憑きの様相を醸し出していた。
「……これ、絶対に出るヤツだろう……」

 結論から言うと何も出なかった。帰ってからも肩が重いとか、体調が悪いとか、不幸な目に遭う……なんてことも無い。ただひとつ変わった事は……。
「おかえりなさい。今日の晩御飯は寄せ鍋よ」
 帰宅した翌日、俺に一目惚れしたという女の子が押し掛け女房のごとく住み着いただけで。
「良い匂いだな。でも本当にここに居て良いのか?」
「ええ、あなたの側にずっといたいの」
 彼女がゾロリとした黒髪をなびかせて笑う。俺は思わず照れて頭を搔いた。

お題「部屋の片隅で」

12/7/2023, 11:37:48 AM