ほろ

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あなたが欲しいのは、右の箱ですか? 左の箱ですか?
なんだかどこかで聞いたことのある文句を言いながら、妻が両手に乗っている小箱を差し出してきた。
「ちなみに、どっちが正解とかあるの?」
「さあ、どうでしょう」
妻は微笑んで言う。あくまでも選ばせるつもりらしい。
金でも銀でもなく、いつも使っている鉄の……って答えるのが物語の主人公だけれど、妻の周りには"いつも使っているもの"が見当たらない。

あなたが欲しいのは。

妻の言葉を心の中で繰り返し、「じゃあ」と妻の頬を両手で挟んだ。
「君が欲しい」
「ふふ、そう言ってくれると思った」
妻は満足そうに笑って、二つの小箱を僕に握らせる。
「誕生日プレゼントよ」
小箱を開く。右の方には青のネクタイピン、左の方にはストラップ。
「おそろい」
ちり、とスマホに付けたストラップを僕に見せて、無邪気に笑う妻。僕が本当に欲しかったのは、妻のこういう笑顔だったのかもしれない、なんて。

12/23/2023, 1:31:23 PM