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梅雨

俺は梅雨の雨が嫌いだった。あいつが死んだ日も梅雨の大雨が降っていた。車がスリップして横断歩道を渡ろうとしていた子供をかばって死んだ。俺はそれを聞いて「あいつらしい」と思った。毎年あいつが助けた子供の親が家にお供えを持ってくる。いつも涙ぐみながら謝る。この頃子供が言葉を理解してきて片言の言葉で「ごめんなちゃい」と言う。あいつはあの日婦人科に行った。あと2ヶ月で子供が生まれるというところだった。あいつが新しい命を授かったとき俺は泣くほど喜んだ。そのことを思い出すと俺は食事が取れないほど泣いてしまう。あいつと「子供の名前は香菜にしようね」と話していたのにどんなにわめいてもあいつも子供も帰ってこないってわかっているのに。

6/2/2024, 6:33:38 AM