川柳えむ

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「ここではないどこかへ行きたい」

 部室にて。
 突然そんなことを目の前に座る先輩が言い出した。
 現在は夏休みの部活中。まぁ、活動らしい活動もいまいちできていないけど……。

「校外活動ってことですか?」
「それだ――――――――っ!!!!」

 いや、これたぶん「どっか行きた~い」って適当に言っただけだな。そんな気がする。
 しかし、私の一言で、先輩はいい案だとばかりに顧問の先生を言いくるめ、校外活動をすることになった。余計なことを言ってしまった。

「どこへ行くんですか」
「それは当日のお楽しみ~」

 と言うわけで、それから数日後。私達は近くにある建物に集合していた。

「はい。ここは、脱出ゲームで遊べる施設です!」
「はい?」

 校外活動が何をどうして脱出ゲームすることになった? どんな言いくるめ方をしたんだ??

「この施設全部が脱出ゲームの舞台になってるんだー。建物は四階建てで、上から始まって一階が出口です。ペアで挑んで一番早くクリアできたところが優勝! ペアは決めておきました。じゃあ行ってらっしゃい!」

 先輩が一方的に捲し立て、私達を建物内に無理矢理詰め込む。

「こっちが口を挟む隙ナシ!」
「まぁ、とりあえず、行くしかないんじゃね?」
「~――……!」

 いや、別にいいんだよ。暇してたもん。楽しそうだし。
 でもね、問題は――いや問題でもないけど。嬉しいけど――勝手にペアを好きな人と組まされてるってことだよ!

「あいつが滅茶苦茶なのはいつものことだし。とにかく、行こうぜ」
「はい……」

 ドキドキしながら君の後ろをついて歩く。

 そんなわけで、この建物から脱出をすることになってしまった。
 とりあえず私が考えていたことといえば、ここを出た後、あの勝手な先輩をどれだけしばいてやろうかということだった。


『ここではないどこか』

6/27/2024, 10:53:40 PM