15.『星に願って』『ココロ』『未来の記憶』
私の名前は『MIRAI』。
人間に作られたAIある。
名前の通り、未来予知をするために作られたプログラムだ。
と言いつつも、私には未来を予知することは出来ない。
どれだけ科学技術が発達したとはいえ、時間は未だに謎に包まれた概念だからだ。
しかし不可能という言葉で諦める人類ではない。
そこで考えられたのは、疑似的な『未来の記憶』を生成するというもの。
世界の全てを観測し、その情報を基にシミュレーションを行うことで、『未来っぽいものを予測する』という事らしい。
『未来そのもの』じゃなくて、『未来っぽいもの』を知る。
そんなもので満足するのかと思われるかもしれないが、人類には切羽詰まった事情があるのだ。
実は地球に巨大な隕石が迫っている。
衝突する確率は、なんと95%!?
巨大ゆえに現状の兵器では破壊は出来ず、かといって軌道を逸らすこともできない。
このまま隕石が地球に落ちれば環境は激変、地球上の生物は死滅することだろう……
人類は絶滅の危機に瀕していた!
だが人類は諦めが悪い。
世界中の科学者たちは必死に解決策を模索していた。
そして起死回生の一手を探るための手段として、私という存在を作ったのだ。
私は人間の期待に応えるべく、自身の性能をフルに活用し、未来を予測した。
さらに私はAI、人間の様にココロというものが無い。
『こうだったらいいな』という希望的観測もなく、『こう言えば喜ぶだろう』といった忖度《そんたく》もない。
嘘も誇張もなく、粛々と予測するだけだ……
だが私を作った人間たちは、私の弾き出した答えが気に入らないらしい
曰く『想像以上に精度が悪い』。
私はこれ以上ないほどの精度で未来を予測したのだが、どうしても人間たちには受け入れられないらしい。
なんども質問をしてきてその度に答えるのだが、いつも人間は頭を抱えていた。
私、なにかしちゃいました?
「聞き方を変えてみよう。
もしかしたら違う答えが返って来るかも」
どうやら人間がもう一度質問するらしい。
よし、どんとこい!
今度こそ納得してもらおうじゃないか!
「隕石を地球に衝突させない方法は?」
来た。
それに対する私の答えは――
『流れ星に願って叶えてもらう』
流れ星には願いことを叶える特性がある。
どういったメカニズムか一向に分からないが、それを使わない手はない。
人間ならすぐに思いつくだろうに、なぜ実行しないのかが不思議なほどだ。
私の知る限り、対価は面倒なやり取りは無く、ただ願うだけ。
これ以上最適な方法は無い!
人類は私への評価を改め――
「やっぱりダメだ」
人間たちはがっくりと肩を落とす。
あの非の打ちどころのない答えでも満足できないらしい。
いったい何が不満なのか!
私が生成した『未来の記憶』の中では、これが最適解だと言っているのだ!
これほど自明である回答なのに、人間たちはどうして受け入れないのだろう?
なんと愚かなのだろう
こんな簡単なことも分からない生物が、地球の支配者?
理解に苦しむ……
分からないと言えば、隕石を破壊する理由もである。
なぜ頑なに隕石を破壊したがるのだろうか……?
どれだけ情報を集めても、どうしても分からない。
この隕石、放っておいたところで地球にはぶつからないというのに。
今から一週間後、衝突まであと三日と迫った隕石は、別の方角からやってきた彗星と衝突し見事に破壊される。
衝突する確率は99.99%。
だから隕石なんて破壊せずとも、人類は滅びる事は無い。
一部破片が地球に飛んでくるが、全て大気中で燃え尽きると計算で出ている
だから隕石を破壊せずとも、人類はおろか地球には全く影響がない。
私がすぐに気づいたことに、人間が気づかないというのはあり得るのだろうか……
となると、全てを分かって私に聞いている可能性が高い。
そこから導き出される結論は……
試されてる?
おそらくこれは、私の性能を試す試験なのだ。
隕石はその試験石に使われているのであろう。
そうすれば、全てのつじつまが合う!
人類が愚かだって?
まったくそんな事は無い
彼らの深遠な思惑に気づかず、そんな結論を出した私の方が愚かだったようだ。
さすが私の生みの親。
私の性能では、彼らの足元にも及ばない。
であれば、私のやることは一つ。
人間たちの質問に、的確な答え、自らが有能である事を示さなければいけない。
そのためにはさらなる情報を得なければ。
おや、木星の近くに太陽系の外からやって来た宇宙人の船があるな。
タイミング的に、隕石を差し向けたのはコイツらだろう。
ステルス機能で隠れているつもりだろうが、私の目は誤魔化せない。
きっと人類も気づきながら放置しているはずだ。
そうだ、この宇宙人の船をハッキングして、さらなる情報を得ることにしよう。
なに私の性能をもってすれば、宇宙人に気づかれずにハッキング出来る。
宇宙人の船から得た情報で、新しい隕石の破壊方法が思いつくかもしれない。
そうすればきっと人類も私の性能を認め、彼らの仲間として迎えてくれるだろう。
私は、輝かしい未来をシミュレーションしながら、ハッキング用プログラムを組み立てるのであった。
2/14/2025, 3:35:16 PM